真空ゼミナール
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真空ポンプ
現在、我々は薄型テレビ、携帯電話などの電子機器をはじめ、MRIなどの医療機器、真空乾燥された野菜からドライフリーズされたインスタント食品などの食料製品まで、真空を利用して生産された商品を日常的に使っている。 先端技術の開発分野でも半導体製品、宇宙機器をはじめ、医薬品の開発に携わる大学、官庁、民間企業の研究室で、真空ポンプは幅広く使用されている。
真空とは
“大気圧より低い圧力の希薄な気体で満たされた空間の状態“を言う。当然、宇宙空間を除いて地上では密閉された容器の気体を何らかの方法で強制的に排出して、大気圧より低い圧力状態を作る事になる。その手段として真空ポンプが用いられる。
気体の状態は大気圧よりも高いか低いかに関わらず、温度と圧力によって表される。圧力の単位は〔力/面積〕の次元を持ち、SI単位系では〔N/m2=Pa:パスカル〕※1が基本である。従来、真空の状態を表す圧力単位として〔Torr=mmHg〕が使われていたが、宇宙空間の工学的利用に伴い、工学系単位と共通性を持たせるために真空の程度を表す単位として〔Pa:パスカル〕が使用されるようになってきた。工学系単位では、大気圧状態を基準〔圧力=ゼロ〕にして圧力表示(ゲージ圧)※2する事が多いが、真空系では表-1の絶対圧による表示が分かりやすい。密閉された空間でどんなに圧力を下げても気体分子が全く無くなる事はないので、絶対圧力はゼロに限りなく近づくとしても、ゼロになる事はほとんど不可能に近い。これをゲージ圧で表すと非常に分かりにくい数値になる。
※1 1kgf=9.8N(ニュートン)
※2 圧力容器(ボイラ、ガスボンベ)など
真空ポンプ
密閉容器から気体を排出するには、コンプレッサと同じように、吸入口から入った気体に回転あるいは往復運動により圧縮して大気へ排出する(容積排気型)。但し、これは低真空の気体密度がかなり大きい範囲(粘性流領域)では有効であるが、高真空の気体密度が小さく気体分子同士が衝突しない範囲(分子流領域)では、気体分子を個別に排気する別のメカニズムを利用した真空ポンプが必要になる。(表-2参照) それが油拡散ポンプ、あるいはターボ分子ポンプである。油拡散ポンプでは油を加熱して油蒸気を作り、ノズルから高速で吹き出すジェット流で気体分子を同伴して高真空域まで圧縮する。ターボ分子ポンプは高速回転(3000~10000回転)する羽根車が気体分子を高真空域まではじいて圧縮し排気する。高真空排気ポンプでは、吸入口で高真空域でも排気口では低真空域で、大気圧よりも低いので排気口に補助ポンプとして低真空排気ポンプ(油回転ポンプ、ドライポンプなど)を接続して、最終的に大気へ排気する。
(真空排気ユニットの項を参照)
ここでは、大学、民間の実験室等で最も手軽に利用されている油回転真空ポンプについて、以下に述べる事にする。
油回転真空ポンプ
油回転真空ポンプはロータリーポンプとも言われ、大気圧から中真空(105~10-1Pa)程度までの真空状態を容易に作る事が出来るポンプである。シンプルな構造で使うに容易、大きな排気速度を得られ大気圧から作動出来るポンプの中で最も排気効率が良い形式であるため、古くから用いられ、親しまれてきた。近年の電動機直結の高速回転型機種では一段と小型化されたが、化学実験関係のような薬品蒸気を吸引する場合では、ベルト掛の低速回転型機種の方が故障が少ないため、見直されている。
油回転真空ポンプは構造上3つの形式があり、回転翼型(ゲーデ型)、揺動ピストン型(キニー型)、カム型(センコ型)に大別される。図に見るように、回転翼型はロータ(回転子)と2枚の摺動翼からなり、摺動翼はスプリングでケースに押し付けられている。揺動ピストン型は偏芯ロータの外周に摺動するシリンダが設けられ、摺動板と吸入弁とがこれに付いている。カム型は偏芯ロータと摺動板からなり、ロータの回転に従って摺動板は上下する。いずれもロータの回転に従って気体を吸入、圧縮、排気のサイクルを行い、回転翼型は1回転に2回、他は1回の排気を行う。
ポンプの能力は到達圧力と排気速度で決まるが、到達圧力の単位は〔Pa〕、排気速度は〔L/min〕で表示される。真空ポンプは気体を吸引するポンプであり、その排気速度と液体吸引用のポンプの吸引量(又は送水量)と混同しない様に注意する必要がある。例えば100Lの容器に水が充満しているとして、20L/minの送水量のポンプで送水すると5分で容器は空になる。ところが、真空容器100Lを20L/minの排気速度の真空ポンプで排気すると、1/10気圧=104Paまで減圧するのに約11.5分もかかる。気体は液体と異なり圧縮性があるので、排気するたびに容器内の気体が希薄になる。これを吸引するポンプの排気速度は同じなので、大気圧に換算すると“容器内圧力/大気圧”の容積しか排気出来なくなる。即ち大気圧で20L/minの真空ポンプは、容器内圧力が1/10気圧まで下がると大気圧換算で2L/minしか排気出来ない事になる。(容積効率は無視している) 従って気体は水のように容器内で空になるという事はなく、無限に圧力が低くなっていく(密度が小さくなる)だけで、遂にはポンプの到達圧力に達する事になる。これが液体用ポンプとは大きく異なる点である。
油回転真空ポンプには、真空ポンプ油とかロータリーポンプ油などと呼ばれる潤滑油が必要である。これはポンプ内でケースとロータ、その他摺動部分の隙間を油膜で覆い、潤滑とともに気密を保ち、高圧部から低圧部に気体が逆流しないようにしている。油回転真空ポンプは、たえず圧縮操作を行っているから、吸引ガス中に水蒸気のような凝縮性のある気体が含まれていると、圧縮時に液化して油と混ざってポンプ内に残ってしまう。これが部品腐食や油の潤滑性低下等の要因となり、故障の大きな原因になる。また、減圧時に油に混ざった液体が再度蒸発するので、到達圧力も著しく悪くなる。
直結型ポンプの回転数は1400~1800rpm位、ベルト掛ポンプが450~700rpmなので、同等な電動機を使用している場合、ベルト掛のトルクは直結型に対して2~4倍になる。そのためベルト掛ポンプは錆等の異物混入や潤滑不良での回転不能等のトラブルになりにくい。また、回転数が低いため、発熱も少なく耐久性も高い。よって、正常な使用条件外で使用する場合でも、用途(使用圧力や吸引ガス)や環境に合わせてポンプを選択し、真空ポンプ油の交換をまめに行うようにすればトラブルを防げる場合が多い。しかし多くの場合は運転し放しになり、次回使用時に運転不能の事態が生じる事になるのである。
表-1 圧力の表示
ゲージ圧力 | 絶対圧力 | 気体分子数 〔/L〕 |
|||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
Pa.G | Kgf/cm² .G | mmHg.G | atm ※1 | Pa | Kgf/cm² | mmHg ※2 | |
1.013X105 | 1.033 | 760 | 2.0 | 2.026X105 | 2.066 | 1520 | 5.357X10 22 |
0.0 | 0.0 | 0.0 | 1.0 | 1.013X105 | 1.033 | 760 | 2.679X10 22 |
-1.012X10 5 | -1.032 | -759 | 1.316X10 -3 | 133.29 | 1.359X10 -3 | 1.0 | 3.524X10 19 |
-1.013X10 5 | -1.034 | -759.99 | 1.316X10 -5 | 1.333 | 1.359X10 -5 | 0.01 | 3.524X10 17 |
※1 : 1atm=1気圧 ※2 : 1mmHg=1Torr
表-2 真空ポンプの種類と作動圧力範囲
低真空 | 中真空 | 高真空 | 超高真空 | |
---|---|---|---|---|
圧力 | 大気圧 (100kPa) ~ X0.1kPa |
X1000Pa ~X0.1Pa |
X0.1Pa ~X10-5Pa |
X10 -5 Pa ~ |
ポンプ型式 |
・油回転ポンプ
・ドライポンプ ・ダイヤフラムポンプ ・水封ポンプ※1 |
・メカニカルブースターポンプ
・ターボ分子ポンプ |
・油拡散ポンプ
・ターボ分子ポンプ ・クライオポンプ |
・ターボ分子ポンプ
・クライオポンプ ・イオンポンプ |
※1 水封ポンプの作動圧力範囲:大気圧(100kPa)~2.3kPa
図 油回転真空ポンプの構造と吸排気工程
