油回転真空ポンプの技術的なFAQ

油回転真空ポンプの「どうして?」


  1. 容器内圧力が真空ポンプ゚吸入口圧力まで下がらないのは?

    大きく次に述べる3つの要因があげられます。

    1) 容器、配管からのガス漏れ

    真空容器扉や配管フランジ゙の締付状態が悪いと真空排気した時に大気が流入するので、流入量(リーク量)と真空ポンプ゚排気速度がつり合う所で容器圧力は一定になります。(リーク量とポンプ゚排気速度が平衡状態)どの圧力で平衡状態になるかは、リーク量によります。 扉などフランジ部のシールはOリングを使用するのが基本ですが、異物のはさみ込みやOリング自体のキズはシール性を悪くします。溶接部にクラックやピンホール(溶接欠陥)があるとリークの原因となるので、Heリークディティクタで検査を行い外部リークのないようにするのが原則です。 配管接続部は圧力配管と同じガスケットを使用したり、ネジ込み接続したりするとリークの原因になります。外部配管に限らず容器内の配管も同様です。

    2) 容器と真空ポンプをつなぐ配管の抵抗

    配管内をガスが流れると流動抵抗により配管の入口、出口間に必ず圧力差が生じます。これがポンプ吸入圧に加算されて容器内圧力(真空度)となります。容器と真空ポンプをつなぐ配管の口径は、ポンプの吸入口径と同じにするのが基本です。配管径がこれよりも細かったり配管長が長くなったりすると圧力差が大きくなります。※1
    特にここで注意しなければならないのは油回転真空ポンプの排気曲線(特性)を見ると吸入圧10~40Pa程度から排気速度が低下する事です。※2容器内が汚れていたり容器内の構成部品に樹脂性のものが含まれていると、次項[A:3)]で述べる表面からのガス発生が容器内圧力に大きく影響し、排気速度の低下と相関して、ポンプ吸入圧と容器内圧力の差が大きくなる方向に作用します。

    ※1: 配管口径が半分になると長さが同じでも入口、出口の圧力差は約7~10倍になり、容器内圧力はそれだけ高くなる事になります。配管長さは(口径×40~50倍)程度が適切で長くなると長さに比例して圧力差は大きくなります。

    ※2: 油回転真空ポンプは回転型であっても容積移送型なので、使用するオイルの蒸気圧特性により、吸入圧低下と共に吸入する空間がオイル蒸気で徐々に占められて、吸入ガスと混合した状態になる。最終的には吸入する空間がオイル占有され、吸入口からのガス吸入ができなくなります。 これが油回転ポンプの排気限界となります。(図-1:参照)

    図-1 油回転真空ポンプの排気曲線

    油回転真空ポンプの排気曲線

    3) 容器、および容器内構造材からのガス発生、配管の汚れ

    容器内壁の洗浄が不十分であったり、配管内がポンプ゚吸入口へのオイルの逆流等で汚れていたりすると、油回転真空ポンプで真空排気する低真空領域でも圧力低下と共にガス発生がポンプ排気への負荷を増やし、排気時間が長くなる事になります。
    又、容器に収納された構造部材に狭い隙間やタップ孔が多数あると、これがガス溜まりとなりガス放出源になるのでこれもポンプ排気の負荷を増やします。部材に樹脂材を使用する場合も同じ事が起こります。樹脂材はミクロに見るとポーラス状であり、ガスを吸着あるいは、溜めこんでいる状態と言えます。ガス溜まりからは表面からのガス放出(蒸発も含む)よりも遅れて容器にしみ出てくるような状態になるので、見かけ上は真空排気に時間がかかり、真空ポンプ自体の排気速度が悪くなったトラブルと間違い易い。
    従って、容器内面や配管内面の洗浄を十分に行う事や、容器内構造部材にガス溜まりを作らない事が、真空ポンプにトラブルが生じているか判断する上で大事になってくる。真空ポンプ本体のトラブルかどうかはポンプ゚吸入口での圧力(真空度)を測定すれば簡単に確認できます。

  2. 真空ポンプ゚を使用している間に到達圧力が悪くなるのは?
    オイル不足やオイルの劣化が原因で、真空ポンプの能力が低下します。

    1) オイル不足

    真空ポンプの油面計で確認できます。大気圧近くの運転を長時間(20~30分以上)続けると、排気口からのオイル飛散が続く事になるので、オイル不足の原因となります。
    オイル不足はロータとケーシング間のシール性の悪化を招き、更には摺動部品の損傷につながります。

    2) オイル劣化

    水分や溶剤(アルコール、アセトン、灯油等の炭化水素系溶剤)蒸気を吸入すると、オイルの蒸気圧特性が変わるので、真空ポンプ自体の到達圧力、排気能力が低下します。
    オイル中の水分を浄化するオイルフィルトレーション装置やポンプ吸入口前段に溶剤蒸気を吸着するコールドトラップを設けてオイル劣化をある程度まで防ぐ事はできますが、いずれかの段階でオイル交換やオーバーホールが必要になります。

  3. オイルが排気口から吹き出す
    ポンプオイルを入れすぎたり、水分を多量に吸入して油面計の標準レベルより油面が上にある場合に、排気口よりオイルが吹き出します。又、内部の排気弁が破損している場合も同様の事が起こります。
  4. 排気口からオイルミストや油煙が出るのは?
    油量が適切であっても吸入口圧力が大気圧に近い程、排気流に同伴してオイルミストが排出されます。吸気口圧力が下がると飛散するオイルミストは少なくなりますが、ポンプをある程度運転してオイル温度が上昇すると、排気口からモヤモヤと油煙が発生します。
    一般的には排気口にオイルミストトラップをつける事でこれらを防ぐ事ができます。
  5. 運転中に異常音がする
    通常運転時の異常音は2つのケースが上げられます。

    1) 起動時

    起動時のみの場合はオイル不足もしくは、オイル温度が低い場合に運転音が大きくなります。環境温度が低くなる冬期はオイルの温度も低下するので、起動時にオイルの流動性が悪いために音が大きくなる事があります。又、オイル温度が低すぎると、起動しても停止(過電流によるブレーカ作動)するか、電動機が異常に熱くなります。(電動機のオーバーロード)

    2) 運転時

    運転中も異常音が持続している時には、次の部品が損傷している場合があります。

    ① ガラガラという金属音 ・・・ ベアリング破損
    ② 周期的なうねり音の繰返し ・・・ ロータ軸摩耗および軸受破損
    ③ ガチガチという衝突音 ・・・ ベーンおよびスプリング破損
    ④ 正常時より排気音が大きい ・・・ 排気弁破損