真空加熱│真空ゼミナール

真空環境下での加熱 - 真空乾燥器・真空熱処理炉 -


1.はじめに

    宇宙空間のように空気が極端に薄い状態(真空中)で温度が上がると何が起こるのだろうか。
地上では圧力鍋で料理すると短い時間でやわらかく調理できるが、同じ地上でも富士山頂の様に気圧の低い所でご飯を炊くと芯の残った半炊き状態のご飯しか出来ない事を我々は知っている。
これは圧力鍋では水の沸騰する温度が高くなり、富士山頂では気圧が低いために、沸騰温度が下がる事によって起こる。ただ、人工衛星が飛び回る圧力が極端に低い宇宙空間では水は液体ではなく氷か、薄い水蒸気(ガス状)でしか存在できない。
圧力が大気圧より低い状態で加熱すると悪い事ばかりなのだろうか。
圧力が低くなると水(液体)の沸騰温度が下がり,もっと圧力の低い真空環境ではガス状になる事などを工業的に利用すると大気圧下では見られない様々な利点がある。圧力が低くなると沸点が下がり、低い温度で均質な乾燥(真空乾燥)か可能となり、良質な粉末調味料やインスタントラーメンをつくる事ができる。更には、もっと圧力を下げて人工衛星の軌道と同じ位の真空状態にして、温度を上げると表面に付着した不用物質(水も含む不純物)が蒸発するので表面をクリーン化処理(真空ベーキング)した事になる。
これは半導体製造装置の構成部品や、液晶パネルガラス表面のクリーン化処理などに利用されている。ここでは大気圧より低い圧力状態(真空中)で常温付近から超高温の2300℃まで加熱できる装置とその主な用途について紹介する。

2.装置の種類と構造

   真空雰囲気下で加熱する装置は温度領域によりヒータ材質、温度制御センサ、容器構造および材質が異なる。表-1に加熱温度域による制御センサ、ヒータ材質の大まかな区分を示す

表-1: 真空加熱装置の加熱温度による分類

分類 加熱温度 制御センサ ヒータ材質
(加熱方式)
有効寸法
超高温 1400~2300℃ 放射温度計 カーボンヒータ
メタルヒータ(W、Mo) *1
・φ50~200 x L100~400
・□150~500 x L200~600
高温(1) 1000~1500℃ 白金-ロジューム
熱電対
(S型、R型、B型)
カーボンヒータ
メタルヒータ(Mo、SiC) *1
・φ50~400 x L100~700
・□150~600 x L200~900
高温(2) 700~1100℃ クロメル-アルメル
熱電対
(K型)
カンタル線ヒータ
中温 200~700℃ シースヒータ ・φ100~1000 x L100~2000
・□200~1500 x L300~2000
低温 40~200℃ クロメル-コンスタンタン
熱電対
(K型、E型)
シースヒータ
バンドヒータ
リボンヒータ
熱媒油循環
温水循環
・φ100~1000 x L100~2000
・□200~1500 x L300~3000

*1) 、Mo:モリブデン W:タングステン SiC:炭化けい素

(1)超高温、高温域(1)、(2):700~2300℃(表-2)
超高温域では高温に加熱された領域にセンサを差し込んで温度を測定する事はできないので放射温度計が使われる。加熱域中の物体から放射される光の特定波長域のエネルギースペクトルにより温度を測定する。高温域では700℃~1100℃(高温(2))の範囲ならばJISで規定するK型熱電対(クロメル-アルメル)で、1000℃~1500℃(高温(1))の範囲ではS,R,B型(白金-白金ロジューム合金)の熱電対を加熱域に差し込んで温度を測定する。
ヒータ材は、カーボン系(タイプI)とメタル系(タイプII)に大別される。カーボン系は低コストであるが、組み立てる時にカーボン材から微粉末の発生が避けられないので加熱域のクリーン度が要求される場合はメタル系のヒータとする。メタル系ヒータと容器壁間の断熱にはモリブデン板、ステンレス板を等間隔で数枚セットして輻射熱をシールドする。シールド板の枚数はヒータの加熱温度レベルによって変わる。 又、高温域でも比較的温度が低い高温域(2)ではヒータ材により低コストのカンタル線や炭化けい素材が使われる(タイプIII)。
超高温、高温(1)の領域では加熱域の温度が高いので安全性の点から容器を2重構造の水冷ジャケット型(タイプI、II)にし、材質をステンレスにするケースが多い。
小型で低コストにする場合は加熱域の温度が低くなるがタイプIIIの形状となる。但し、容器材質がアルミナ管や石英ガラス管になるので有効エリアが円筒形になる。タイプIIIのケースは小規模の材料開発やテストピースの製造などに使われる。

表-2:超高温、高温加熱系の構造

  タイプI タイプII タイプIII
加熱温度域 超高温、高温(1)、高温(2)
700~2300℃
超高温、高温(1)
1000~2300℃
高温(1)、高温(2)
700~1600℃
ヒータ材 硬質カーボン メタルヒータ
(タングステン、モリブデン 炭化珪素)
メタルヒータ
(カンタル線、炭化珪素)
容器材質 ステンレス鋼:SUS304
(水冷ジャケット付)
ステンレス鋼:SUS304
(水冷ジャケット付)
炉芯管材:
・アルミナ管(~1600℃)
・石英ガラス管(~1200℃)
有効寸法  中型  小型~中型  小型
構 造 真空環境下での加熱
図-1
真空環境下での加熱
図-2
真空環境下での加熱
図-3

(2)中温域:200~700℃-(表-3)
この温度領域では金属管でシールドされた温度センサ(JIS、K型:クロメル-アルメル)が使われ加熱域に挿入するか、ヒータ板に固定して温度を測定する。
加熱用ヒータは絶縁材を充填したシース管内にニクロム素線が埋め込まれたシースヒータが使われる。 容器材質は通常ステンレス鋼を使い、保温材で大気と接する装置の外表面温度を下げるのが一般的である。以前、使われていた炭素鋼材は溶接欠陥による真空漏れや、サビによるダスト発生などの面から現在ではよほどの理由がない限り使われていない。

表-3:中温加熱系の構造

  タイプI タイプII タイプIII
加熱温度域 200~700℃ 100~700℃ 80~500℃
ヒータ
マイクロヒータ
シースヒータ
シールド管: 100~500℃
500~700℃
*****ステンレス管
*****インコネル管
容器材質 ステンレス鋼(SUS304)
有効寸法 小型~大型  小型、中型
構 造 真空環境下での加熱
図-4
真空環境下での加熱
図-5
真空環境下での加熱
図-6

(3)低温域:40℃~200℃-(表-4)
温度センサや容器材質は中温域と同じものが使われる。この温度域では低コスト化のためにヒータを容器外壁にセットする事が多い。但し、昇温速度を指定したり加熱域の空間温度分布の精度が要求されるなど特 別な場合や、大型のもので容器重量が数百キロから数トンになるケースではヒータ容量が大きくなり、使用電力も増えて運転コストが高くなるので中温域のタイプI、II、IIIのようにヒータ板を容器内にセットした構造になる。
又、常温に近い温度域(30~70℃)では容器重量とヒータ容量の関連でヒータ加熱では温度コントロールの安定性が悪くなるのでタイプIIIのように温水や熱媒油循環で加熱するケースもある。

表-4:低温加熱系の構造

  タイプI タイプII タイプIII
加熱温度域 40~200℃  40~200℃ (*MAX500℃)  30~70℃ 、 (200℃)
加熱方式 スペースヒータ加熱 バンドヒータ  *耐火レンガ
リボンヒータ   ニクロム線
温水循環加熱
熱媒油循環加熱
容器材質 ステンレス鋼:SUS304
有効寸法 小型、中型  小型~大型
構 造 真空環境下での加熱
図-7
真空環境下での加熱
図-8
真空環境下での加熱
図-9

(4)真空排気系 :表-5
真空加熱によりどのようなものを作るのか、その目的にあった圧力(真空度)から真空ポンプの構成が表-5のように決められる。低真空域(大気圧→20~3Pa程度)ならば油回転ポンプ(ロータリポンプ)もしくはドライポンプ単体で対応できるが、高真空域(0.1Pa~×10-5Pa)を必要とするならば真空排気系は(油拡散ポンプ)+(ロータリポンプ)、又は(ターボ分子ポンプ)+(ドライポンプ)の構成となる。加熱域でのクリーン度を要求される場合は(ロータリポンプ)+(油拡散ポンプ)の構成では油蒸気により容器内が汚染されるのでドライポンプ単体、または、(ドライポンプ)+(ターボ分子ポンプ、クライオポンプ)の排気システムとするのが一般的である。

表-5:加熱域圧力(真空度)と真空ポンプ

圧力(Pa)* 真空ポンプ
大気~3.0 油回転ポンプ
大気~10 ドライポンプ
1000~0.4 メカニカルブースタ+油回転ポンプ
3~1x10-3 油拡散ポンプ+油回転ポンプ
200~2x10-5 ターボ分子ポンプ+ドライポンプまたは、
ターボ分子ポンプ+油回転ポンプ
40~10-7 クライオポンプ+ドライポンプまたは、
クライオポンプ+油回転ポンプ

*) 圧力(真空度)は、容器内圧力で真空ポンプ吸入口圧力より高くなるのは、 配管の抵抗と容器内のガス発生による影響である。

(5)運転操作
装置内に処理材をセットして扉を閉めた後の運転操作は真空排気、昇温、冷却、大気復圧の一連の工程を自動で行う場合(全自動運転)と、各工程を個別に操作するマニュアル運転がある。
この選択はユーザ指定による。加熱温度の制御は設定温度まで昇温する時間を指定したり、設定温度をいくつか指定してそれぞれの昇温時間を設定するプログラム温度制御と設定温度が1つで昇温時間を指定しない定置温度制御がある。
いずれの場合も設定温度付近では温度調節計がPID制御を自動的に行う。又、ヒータの異常な温度上昇や冷却水不足、真空ポンプ故障などの装置の異常状態を検出した場合、事故防止のためそれぞれの症状に応じて、ヒータ停止、あるいは全停止するなどの安全回路を備えているのが一般的である。

3.利用分野

    真空加熱装置の利用は、食品工業から先端技術の開発分野まで多種多様な範囲に渡る。
代表的な例を表-6に示す。今後、需要が増えると見られるディーゼル車の排ガスフィルターに使われるセラミック材は超高温域の加熱炉で作られる。
液晶パネルやプラズマディスプレイではガラス基板の薄いシリコン膜の上に画素駆動用IC回路が薄膜トランジスタで構成されている。IC回路を作る時に基板上に不純物が残っていると、成膜過程でピンホールなどの欠陥が発生する。IC回路に欠陥があると画素駆動回路が正常に作動しないために表示画面に暗い部分や暗い線が走る事になる。これを防ぐには成膜前に基板上の付着物を取り除くクリーン化処理をしなければならない。又、成膜時には基板に部分的な温度変化ができるためにひずみが生じるのでこれらを防ぐ為に真空加熱装置で前処理が行われる。このように我々が普段使っているデジタルカメラや携帯電話などの製造ラインには様々な形で真空加熱装置が組み込まれている。
又、先端技術を駆使する新材料開発にも大学、官庁、民間企業の研究所を問わず、より高機能な製品開発に向けて真空加熱装置が広範囲に利用されている。

表-6:真空加熱装置の主な用途

温度領域 用 途
超高温1400~2300℃ ・セラミック材の焼成、焼結
高温(1)1000~1500℃ ・粉末金属材の焼成、焼結
・異種金属のロー付
・金属の真空溶解
高温(2)700~1100℃ ・金属材、工具用合金鋼の焼入れ、焼戻し
・高純度ガラスの溶解
中温200~700℃ ・ガラス基板、半導体製造装置部品のベーキング
・電池材料の焼成
・機械加工部品のベーキング
・有機材料の表面改質
・プリント回路基板の乾燥
低温40~200℃ ・加工食品(粉末調味料、インスタントラーメンなど)
・粒状有機材の乾燥
・電子回路部品の乾燥
・有機EL材の開発

4.まとめ

   今回、高周波加熱装置については触れなかったが、空気の影響を受けない状態で鋼鉄や特殊金属を溶かす高周波溶解炉や、焼入れ、焼戻し炉などは現在でも生産ラインで使われている。真空加熱装置は真空環境下で単純に加熱処理するだけでなく、新製品の開発に伴って新しい利用形態が生まれ、生産ラインが再構築されてゆく。
    加熱域でのダスト量をより少なくした高クリーン状態での処理や、真空排気後にガス置換して高精度なガス濃度管理あるいは圧力コントロールしながら加熱処理するなど最近では中温域の300℃~600℃の装置でこの傾向が目立つ。実際には外観的に以前と同じように見えても処理内容が少しずつ変わってきている。
    真空加熱装置は生産される製品によって利用形態が変化しているので、今後どのような方向に進むかは求められる製品の質的変化や宇宙ステーションの実験からどのようなものが生まれてくるのかにもよるので予測するのは非常に難しいと思われる。
    いずれにしても製品の品質向上や高精度化、高機能化、材料の高純度化に向けて必要な装置であり、時代と共に進化していくものと考えられる。