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   真空乾燥
1.はじめに
    我々は日常的に天気が良くて、風が吹いていれば洗濯物は良く乾くが、曇で湿度が高い梅雨時は乾きにくいという事を経験している。
    しかし、ぬれた物を乾かすという事を工業的に行う場合、どのような環境条件でも乾燥品質を維持するために確実な乾燥を再現する装置が必要である。複雑な形状や多孔質性の加工部品に対しても確実な乾燥と再現性が求められるのは言うまでもない。これらの乾燥を効率的に行うには“真空乾燥”という手段が必要になってくる。
 
2.温風乾燥と真空乾燥
・温風乾燥とは---日常的に利用される乾燥は“温風乾燥”と呼ばれるもので、より早く乾かすためには次の条件が必要である。
(1) 乾燥する物の温度が高い。
(2) 風が吹いている。
(3) 大気の湿度が低い。
    乾燥の良し悪しは水でぬれた物の乾燥に限って考えた場合、表面と風との水蒸気分圧差(又は濃度差)によって決まる。表面温度が高い程、又は乾燥風の湿度が低い程水蒸気分圧差(濃度差)は大きくなる。上記の3つの条件は水蒸気分圧差を大きくするための要素に他ならない。
    しかし、物を乾燥する時に水分の蒸発潜熱により物の温度は下がる。表面の水蒸気分圧は下がって風との水蒸気分圧差は小さくなり、乾燥しにくくなってくる。図1のモデル図に示すように通常は晴れていれば太陽光が洗濯物を暖めてくれるので何ら問題はない。工業的に利用する装置では温風が乾燥物に熱を供給するか、ヒータで暖めるかして温度低下を防ぎ、より早く乾燥するように工夫するのが一般的である。
    だが、これは物の表面に付着した水分を乾かす場合である。スポンジのように多孔質で内部まで水がしみ込んだ物を乾かすには内部の水が表面までにじみ出て表面から蒸発するのを待たなければならず、乾燥完了までに長時間かかる事になる。
・真空乾燥とは---乾燥物を密閉容器に入れ、乾燥の条件である水蒸気分圧差を人工的に大きくするために真空ポンプで減圧排気する方法が“真空乾燥”である。今、表面温度が25℃の物を30℃、50%湿度の温風で乾燥する場合と比較すると真空乾燥の方が1/3の時間で乾燥する。図2に示すように真空乾燥は密閉された容器の中で行われるから温風乾燥のように太陽光又は温風からの熱供給は期待できない。水分蒸発に伴う乾燥物の温度低下を防ぐために何らかの加熱法が必要になってくる。乾燥物の温度が下がらないようにするには
? 容器内に入れる前に温度を上げておく。
? 容器全体を暖めて、幅射熱で乾燥物を暖める。
? 容器内のヒータ板上に乾燥物を置き、熱伝導で暖める。
等の方法となるのが一般的である。
    真空乾燥では狭いすき間あるいは細管内部まで強制的に減圧されるので、すき間内の水分がより早く蒸発する。又、乾燥物内部の温度が極端に下がらない限り、突沸現象で狭いすき間に閉じ込められた水分が吹き出す事があり、乾燥をより促進する事になる。このように真空乾燥では真空ポンプが蒸発水分を排気するのに十分な容量を持っていれば、多孔質性あるいは粉末状の物でも内部まで均一な乾燥を実現できる。
    しかし、多孔質性の内部まで均質に乾燥できるとか、温風乾燥より早いとかの利点はあっても、乾燥速度は蒸発によって奪われる熱量と供給される熱量が平衡する温度によって決まる。特に多孔質体や粉末状の乾燥物で材質の熱伝導率が小さい場合は、前述の加熱法によっても表面温度は上昇するが内部温度は上がらず中心部の乾燥が遅くなる。従って、熱伝導率の小さい材質で多孔質体の物を乾燥する場合、真空乾燥であっても表面は乾燥しているが内部は乾燥完了していないという事もあり得る。
 
3.真空乾燥の利用
・食品産業---密閉容器を減圧して乾燥を行うと水分蒸発に伴い処理物温度が低下する事は前に述べたが、これを積極的に利用したのが生鮮野菜の貯蔵、運搬である。生鮮野菜は収穫後も呼吸作用により鮮度を失ってゆく。この生理代謝を抑え、障害を起こさない温度(約3℃前後)まで冷却すれば鮮度を維持する事ができる。収穫した生鮮野菜、果物類を段ボールに入れたまま容器内で減圧すれば野菜、果物類は表面の水分蒸発と共に温度が下がり冷却される。しかも容器内は均一に減圧されるから冷却も短時間で均一に行われる。これは真空冷却、真空凍結と呼ばれる方法で、現在では処理量数トンから数十トンクラスの大型装置も利用されている。

・電気、電子部品---電気機器の中でも各種コイル(モータコイル、変圧器、リレー機器等)、通信ケーブルなどは細線をより合わせたり絶縁被覆されているなど狭いすき間が複雑に構成されている。湿気による結露や、水洗後の残留水分は絶縁不良となり致命的な欠陥となる。これらのコイルやケーブルの水分乾燥には真空乾燥が最も適している。材質的にも熱伝導率の良い銅線を使うケースが大半なので大型コイルでも深部まで昇温する事ができ、性能保証に見合った乾燥処理をする事が可能である。

・金属、機械加工部品---精密機械加工部品の水洗浄後の乾燥は形状が複雑で多数のタップ孔があるなど乾燥しにくい処理物に入る。又、焼結部品や金属粉末なども内部まで均質に乾燥するには真空乾燥が利用される。

    但し、多孔質体や粉末では前述のように素材の熱伝導率が低いと内部まで均一に乾燥しないケースもある。この場合には乾燥物の温度を予め上げておく事が一つの解決法となる。
    真空乾燥で乾燥物温度をより早く上げるために工夫された装置が温風循環加熱と真空乾燥を併用した高速真空乾燥機である。これは大気圧状態で温風循環により乾燥物温度を上げてから真空乾燥を行う装置である。熱伝導率の低い材質の物でも温風循環加熱により真空中よりも早く昇温でき、全体の処理時間を短縮する事ができる。
 
4.まとめ
    真空乾燥について概略的に述べたにすぎないが凍結乾燥まで含めた真空乾燥の利用は多くの分野に渡り、メーカー1社が全分野に多種類の装置を製造供給する事はかなりの技術的蓄積が必要とされる。従って各分野で利用される装置は利用目的に合わせて、各メーカーがユーザーニーズに基づいた独自のノウハウを反映して市場に供給しているのが現状である。
    又、今回限られたスペースで有機溶剤や油膜の乾燥について振れられなかった事を付記しておきます。
 
図1 温風乾燥
 
図2 真空乾燥
 
・真空乾燥の利用
利用分野 乾燥処理対象物
食品-生鮮食品
-加工食品
生鮮野菜、肉類、果物類
インスタントコーヒー、乳製品、ハム類、インスタントラーメン、粉末調味料
電気、電子部品
プリント基板、リレーキッド、IC部品、ウエハー、液晶パネル用ガラス基板
モータコイル、変圧器コイル、リード線端子
金属、機械加工部品
微細孔加工部品、細管類、成型用金型、焼結部品、メタルフィルタ類
金属粉末、ベアリング、精密機械部品