真空機器の応用例

真空蒸着装置


1.真空蒸着とは

   冬になると地表に霜が降りる。これは、地表の温度が氷点下になり、空気中の水蒸気が凝結した現象である。真空蒸着も霜と同じ原理で薄膜を作製する。 
   物質は加熱すると蒸発し蒸気(気体)になる。この蒸気は凝固点より低い温度の物の表面に霜のように凝結するはずである。しかし、大気圧下でこれを実現しようと思ってもうまくいかない。まず、加熱すると空気中の酸素によって酸化してしまう。また、うまく蒸気になったとしても、大気は窒素、酸素や、さまざまな気体がひしめき合っているため、蒸気がなかなか拡散していかない。では、どうすれば実現できるのか?それは、邪魔者である空気を取り除いた状態、つまり、真空中で行えば良い。 
   簡単に「真空」といっても完全に空気や種々の気体を取り除くことはできない。実際に利用する「真空」は減圧状態である。気体と気体がぶつかり合わずに移動できる距離の平均値を平均自由行程と言うが、大気圧(105Pa)で25℃の空気の場合、この値は約70nmで気体はほとんど動けない状態である。しかし、圧力を10-3Paまで減圧すると約7mになる。したがって、この減圧下で物質を加熱蒸発すれば、蒸気は何にも妨げられず飛んで行き、ぶつかったところに凝結し薄膜状の固体になる。これが真空蒸着である。

2.真空蒸着装置の構成

 図1に真空蒸着装置の構成を示し、主要構成要素を簡単に説明する。 

2-1 真空排気系 
    通常の高真空排気系を用いる。あらびきポンプには、油回転ポンプかドライポンプを用い、必要に応じてルーツポンプをブースターポンプとして併用する。高真空ポンプには、拡散ポンプまたはクライオポンプを使用することが多い。特に基板がプラスチックの場合は、真空にすると水が大量に出てくるので、水の排気速度が大きいクライオポンプが有利である。拡散ポンプの場合は-120℃~-150℃程度のコールドトラップを水の排気ポンプとして併用すると排気時間の短縮に役立つ。

2-2 蒸発源
 物質を加熱蒸発するための加熱源と、物質を入れる容器を含めて、蒸発源と呼んでいる。真空蒸着は通常、10-2~10-3Paの圧力下で行う。蒸発源から発する蒸発物質の蒸気圧は、これよりも高くすれば良く、1~10-2Paが適当である。実際の装置には複数の蒸発源が設置されている場合も多く、その場合は、ベース面の中心から等距離に配置するのが一般的である。良く用いられる蒸発源は次の2種類である。

1) 抵抗加熱
 発熱体の両端に電圧をかけ、流れる電流によるジュール熱で加熱する方法である。発熱体として用いられるのは、タングステン、タンタル、モリブデンなどの高融点金属や、カーボン、窒化ホウ素・ホウ化チタン混合焼結体(BNコンポジット)などである。発熱体は蒸発物質に応じて、適した形状に加工して用い、耐熱性のるつぼを併用することもある。

2) 電子ビーム加熱
 電子銃を用いて加熱蒸発する方法である。電子銃の概念を図2に示す。タングステンなどのフィラメントを抵抗加熱することによって発生した熱電子を高電圧で加速し、磁界で目的に合うように偏向、収束、走査し、るつぼに入れた蒸発物質の表面に照射する。るつぼは過熱を防ぐため水冷する。また、必要に応じて多数のるつぼと回転機構を設ければ、複数回数の成膜を可能にしたり、異なる材料の積層膜を形成することもできる。電子ビーム源は上方にあると蒸発物質によって汚れるので、蒸発面より下方に置くのが一般的で、180°偏向形と、270°偏向形がある。大出力用の電子銃は偏向形ではなく、直進形が用いられる。電子ビーム加熱は、あらゆる材料を蒸発させることができ、現在、工業的に利用されている真空蒸着装置はほとんどがこの方法である。

2-3 基板ホルダー
 真空蒸着を行う10-2~10-3Paでの平均自由行程は数10cm~数mであり、蒸発源から蒸発した蒸気は、ほぼ直線的に基板へ到達する。したがって、蒸発源に対面してない部分には膜は付かない。そのため、基板は目的に応じて動かしながら成膜する必要がある。また、複数の蒸発源を設置した装置が多い。この場合、蒸発源は中心にないので基板を固定しておくと膜厚分布が良くない。通常、レンズやウェーハへの成膜では平円板またはドーム状の基板ホルダーを回転あるいはプラネタリ回転する。さらに複雑な形状の基板では、形状に合わせて、動かし方に工夫をこらさなければならない。

3.真空蒸着装置の用途

 真空蒸着による薄膜の主な用途を以下に説明する。

3-1 光学薄膜
 真空蒸着は1857年にファラデーによって初めて試みられた。しかし、当時は真空技術が低レベルで実用化は困難であった。実用化されたのは1930年代で、現在も使用されている拡散ポンプの完成等、真空技術の進歩に起因する。最初に実用化されたのは、レンズの反射防止膜であった。当時、レンズの反射防止膜は化学的な手法で作製されていたが、性能が良くなかった。真空蒸着によるフッ化マグネシウムを用いた反射防止膜の実用化は光学産業を大きく発展させた。その後、1964年に東京で開催されたオリンピックをカラーでテレビ放送するのを機に、日本で多層反射防止膜作製技術が開発され、日本における光学産業の隆盛を支えることとなった。現在でも、光学薄膜は真空蒸着装置の重要な用途で、眼鏡レンズ、カメラレンズ、色分離用フィルターやミラー、プロジェクターの光学系、光通信における波長分離フィルターなどの広い分野に利用されている。

3-2 装飾膜
 プラスチック製の部品のメタライジングに真空蒸着が用いられている。アルミニウムを抵抗加熱で蒸発させ、プラスチック表面を金属光沢にしている。
 ガラスのミラーもアルミニウムの真空蒸着によって作製されている。

3-3 包装用フィルム
 食品、医薬品、化粧品などの包装に、酸素や水蒸気を遮断するガスバリア性フィルムが用いられている。これはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどのフィルムに真空蒸着で薄膜を付けたものである。不透明なものはアルミニウム、透明なものは二酸化シリコンやアルミナの薄膜を付けている。フィルムをロールからロールに巻き取りながら成膜する真空蒸着装置(ロールコーター)で作製する。  

3-4 ディスプレイ
 液晶、プラズマディスプレイ、有機ELなどのディスプレイには、透明電極が必要である。これは、通常、スパッタリングを用いて作製されているが、一部では真空蒸着も利用されている。
 プラズマディスプレイパネルには、保護膜として酸化マグネシウムが用いられる。この成膜には電子ビーム蒸発源による真空蒸着装置が用いられている。
 有機ELディスプレイでは、低分子系の有機EL薄膜の作製に真空蒸着が用いられている。また、陰極の金属膜も真空蒸着で成膜されている。

4.実際の真空蒸着装置

真空蒸着を使用した身近な製品の例

1.メガネやカメラのレンズ
レンズ表面に反射防止膜等(光学薄膜)を蒸着

2.ビデオテープ等の磁気テープ
磁性体金属をフィルム上に蒸着

3.スナック菓子等の食品包装材
日光を遮り酸素や水分の透過を防ぐ為、裏面にアルミニウム等を蒸着

図1 真空蒸着装置の構成

真空蒸着装置の構成

図2 電子銃の概念図(270°偏向形)

真空蒸着装置